日本の製革産業・タンナーの特徴

日本の革は、革の加工技術の多くが飛鳥時代以前から大陸から渡来した人々によって伝えられたとされ、1500年の歴史があります。古くは鹿革が中心で、武具や馬具の他、衣類や寝具など幅広く愛用され、その後、牛革、馬革、そして豚革も使われるようになりました。現在は日本では牛革が最も多く生産されていますが、豚、馬、羊、鹿といった種類の革も生産されており、それぞれの品質を最大限に活かした仕上げもさることながら、日本古来の工法である藍染め、漆、墨流しなどの手法を用いた革も作っており、日本オリジナルの革を仕上げています。

日本国内でも、気候、文化、歴史的背景により、仕上がる革の特徴は異なりますが、日本の革は海外でなめされる革に比べ、より品質の安定性、再現性の高さ、丁寧な仕上がりに特徴があると言われています。その革が出来上がる背景として、革を仕上げるために欠かせない豊富な日本の水源が挙げられます。日本の川は距離が短く、急流の川が大半を占めるため、水質が綺麗であると言われます。日本の革産地にはその綺麗な水質の川が複数存在しており、その水質を使って丹念ななめし作業が行なわれています。また近年は環境問題への対応として、ノンクロームレザー、エコレザーへの取り組みも強化しており、日本の技術力を活かした新たな革が次々と生産されています。

こうした環境の下、日本のタンナーは丁寧な仕上げ、ロスの少ない仕上がり、納期を厳守し、きっちりと納品するといった、トラブルの多い革作りの中でも取引先との契約を厳守し、信用力の高いビジネスを行なっています。

革種別統計

生産革種別販売枚数構成比

n=320,160枚/月間

仕向け先別生産販売枚数比率(全国)

仕向け先別生産販売枚数比率(全国)

n=320,160枚/月間

仕向け先別生産販売枚数比率(全国)

※(一社)日本皮革産業連合会・(一社)日本タンナーズ協会:「令和4年度 製革業実態調査」より
※生産販売枚数は令和4年1月~7月までの総生産販売枚数を1月あたりに平均して算出した数字

用途別統計

用途別生産販売枚数構成比(全種)

用途別生産販売枚数構成比(全種)

用途別生産販売枚数構成比(全種)

※(一社)日本皮革産業連合会・(一社)日本タンナーズ協会:「令和4年度 製革業実態調査」より
※生産販売枚数は令和4年1月~7月までの総生産販売枚数を1月あたりに平均して算出した数字

産地紹介

日本の製革産業地図

栃木 埼玉 草加 東京 墨田 山形 長野 和歌山 兵庫 松原地区 誉田地区 沢田地区 網干地区 御着地区 高木地区 川西地区
兵庫

日本で一番生産量が多いのは、兵庫県姫路・たつの地区です。日本全国の6割のタンナーが集積しているこの地域は、松原、誉田、沢田、網干・実法寺、御着・四郷、高木、川西の7つの地区があり、伝統的な技術に加え、最先端の技術開発により、これまでの既成概念を覆すような革も誕生しています。さらには伝統的ななめし技術の復刻、継承にも注力しており、温故知新による地域ぐるみの革作りが続いています。

松原地区

クロムなめしの袋用革、衣料革、手袋用、工業用、インテリア用、椅子張用、カーシート用革など、全般的な製品を生産しています。

誉田地区

クロムなめしの薄物中心、衣料用、手袋用、ハンドバッグ用、袋物用、靴用など全般的な製品を生産しています。

沢田地区

クロムなめしの薄物中心、衣料用、手袋用、袋物用、靴用などを生産しています。

網干・実法寺地区

にかわ、ゼラチン・コラーゲン類の日本最大の産地で、クロムなめしの製品を扱い靴用革の生産が盛んな地域です。

御着・四郷地区

クロムなめし、靴用革底、草履用青革、服装ベルト用革、ぬめ革、クロムなめしの靴用甲革、靴用革、袋物用革、衣料用革等の生産が盛んな地域です。

高木地区

靴用甲革、鞄、袋用、衣料用革の他に、馬革の生産や姫路白なめし革など、様々な革の生産を行なっています。

川西地区

クロムなめしの薄物中心、衣料用、手袋用革の生産において、0.4~0.6ミリの薄さと、しなやかさを出す技術は世界的にも追随を許さない高度なものです。

和歌山

和歌山のタンナーは、ヌメ、床、シープ、そして和歌山を代表する仕上げのエナメルなどの専門性を身に付け、分業することで成立する専門的な革も和歌山では特化し、一社で製作管理をしています。ゆえに他ではラインに乗りづらいものにも対応できる環境が整っています。またタンナー同士の結束力も強く、情報や技術の共有がスムーズに行われています。 

東京・墨田

この地区で生産されるピッグスキンは、純国産の豚の原皮を使った「メイド・イン・トウキョウ」の革として日本を代表する革となっています。またこの地区ではタンナーだけでなく、革問屋をはじめ、靴、鞄のメーカー、卸問屋も集積しており、なめしから製品製造、流通までを担う皮革製品産地となっています。加えて、なめし、染色、加工、漉きなどの専門的な職人・工房が集まっており、町ぐるみの生産体制がとられ、分業ゆえに手間暇かかるオーダーにも強い環境が整っています。

埼玉・草加

草加地区の革産業は、他の地域よりも歴史が浅いため、その状況を変えるべく、タンナーは地域ぐるみで原皮調達から製品化まで連携し、扱う革も、牛からエキゾチックレザーまで多彩です。エコレザーへの取組み、次世代への技の継承にも注力しており、新しいことに対しどんどんと挑戦していく姿勢を持っています。

栃木/長野/山形

栃木、長野、山形地区のタンナーは、企業数こそ多くはありませんが、あらゆる革に対応している大手タンナーや、インテリアソファ、チェアーなど大型革製品に対応しているタンナーが存在し、豊かな水源を持つ立地を活かした特徴を持って活発に活動しています。

展示会・イベントの紹介

製革業者が出展している主な展示会・イベントの紹介(国内)①
展示会・イベント名 開催場所 開催時期 内容
1 東京レザーフェア 東京・台東区 5月・12月 台東区の都立産業貿易センター台東館に於いて年2回開催されているレザー関連の新たなマテリアルの提案及びトレンド情報の発信をするトレードショー。近年では海外の革メーカや販売会社も展示参加している日本最大のマテリアル展示会。
2 JFW(ジャパンクリエーション) 東京・千代田区 11月 東京国際フォーラムで開催され、高感度、高品質、高機能など、高付加価値な日本製品を一堂に揃え、世界から質の高いバイヤーが集う日本最大の繊維総合見本市。日本のトップブランドアパレル、デザイナーの他、拡大する通販市場や日本の繊維流通の重要な担い手である商社・問屋のキーパーソンが訪れる。
3 ファッションワールド東京 東京・江東区 4月・10月 毎年春と秋に東京ビックサイトで開催される日本最大のファッション展。最新のサステナブルファッション、アパレル、バッグシューズ、アクセサリー、生地・素材・副資材、ファッションDXを扱う企業が世界中から出展します。年間最大の商談の場として業界に定着している。
4 日本革市 全国百貨店 3月~12月 日本の天然皮革素材と革製品に関する国内最大規模の総合情報メディア「日本革市」。なめし革、革製品の魅力と価値を恒常的に訴求させるために日本の全国百貨店と連携し、開催するPR事業。
5 ひょうご皮革総合フェア 兵庫・たつの市 11月 兵庫県の地場産業として歴史と伝統のある皮革産業の産地イメージの向上、兵庫ブランド天然皮革のPR及び様々な交流による地域の活性化を図るため、ひょうごレザーの魅力に触れられるイベント。
製革業者が出展している主な展示会・イベントの紹介(国内)②
展示会・イベント名 開催場所 開催時期 内容
1 草加レザーフェスタ 埼玉・草加市 2月 2023年で発足20周年の佳節を迎える、草加市の地場産業である「皮革」産業。レザークラフト体験と皮革製品の展示即売会を中心としたイベントを開催。
2 浅草エーラウンド 東京・台東区 10月 「革の聖地」である浅草の一面をもっと知ってほしいという工房や地域のお店のみなさんの想いからスタート。革とモノづくりの文化が息づくこの街の魅力をぜひ探索しながら、普段なかなか訪れる機会がない革問屋や製靴工場、個性が際立つ地域の飲食店などを訪問し、職人や店主と触れ合えワークショップ体験や買い物ができる。
3 LEATHER WORLD(レザーワールド ) 東京・渋谷区 11月 ブランドのおすすめの逸品や普段はなかなか触ることができない皮革素材の展示のほか、人気クリエイターのワークショップなどを通して、皆さまへ革の素晴らしさを伝えることを目的に、2016年から始まった「レザーワールド」。2022年は渋谷スクランブルスクエアで開催した。
製革業者が出展している主な展示会・イベントの紹介(海外)
展示会・イベント名 開催場所 開催時期 内容
1 LINEA PELLE
(リネアペレ)
イタリア
ミラノ
2月・9月 イタリア・ミラノを中心に年に2回開催される「LINEA PELLE」は、世界中からアパレル、皮革関係のデザイナーやバイヤーが2万人以上集まり、500以上ものタンナリーが参加する文字通り世界最大の革見本市。開催月を替えてニューヨーク、ロンドンでも開催されている。また東京レザーフェアとも協賛関係にある。
2 Premiere Vision
(プルミエールビジョン)
フランス
パリ
2月・9月 1973年設立の世界の最高峰に位置する服地見本市のこと。フランス・パリで毎年2回(2、9月)開催される。プルミエール・ビジョンの提案するトレンド(カラーや素材感)はファッション業界に大きく影響を及ぼすといわれている。
3 APLF
(アジア・パシフィック・レザーフェア)
香港 3月 APLFはアジアと世界を結ぶ皮革産業の国際展示会で、関連する完成品および素材のサプライヤーやOEM、OEMの委託先を探している企業、ファッション業界で活躍するデザイナーやバイヤーなどにとって見逃せない情報収集の場、重要なビジネスチャンスを創造する出会いの場となっている。
4 MIPEL
(ミペル)
イタリア
ミラノ
3月・9月 イタリアのミラノで年2回開催され、有名ブランドから新進メーカーまでが参加。約400社のかばんと革雑貨が出品される。約1万5000人ほどの業界関係者が世界各国から訪問する。また、このため新進作家やメーカーの登竜門となっている。時期を同じくして、シューズの国際見本市である「MICAM(ミカム)」も開催される。
5 COTERIE
(コーテリー)
ニューヨーク 9月 アパレル最大級の展示会であるMAGIC同様にUBM主催で、NY Woman‘s September という展示会の一部という位置付け。NY Woman’s Septemberは8つのショーにより構成されており、そのうちの1つが女性ファッション、靴、アクセサリーを主に扱っている。

レザー関連の主な認証制度

日本のタンナーが取得するレザー関連の主な認証制度
認証制度 認証機関 内容
1 JLPタグ
(ジャパン・レザー・プライドマーク)
一般社団法人日本タンナーズ協会 「JLPタグ」は、日本国内で生産された天然皮革素材であり、消費者に安心してもらえることを目的としたもので、一定のルールのもと、申請許可制度の運用を行なっている。タグを使用できるのは、原皮およびウェットブルーから自社工場で再鞣しと染色・加脂を行っており、かつ排水処理を適正に行なっている日本のタンナーのみ。使用許可を得たタンナーが原皮およびウェットブルーから自社工場にて再鞣しと染色・加脂を行った革素材を表面積の60%以上に使用し、国内で製造した革製品だけにタグを付けることができる。
2 LWG認証 LWG(LEATHER WORKING GROUP) LWGの目的は、皮革製造工場に持続可能で適切な環境ビジネスを実行させることにあり、環境の保護と維持が期待されている。環境保護の優先順位と実行可能な基準を作り、それを継続して改善できるようガイドラインに定められている。LWGはイギリスに本部があり、レザーに対する品質や安全性、環境問題等の啓蒙活動を行っている国際団体で、現在では世界的有名ブランドのほとんどが加盟している。ここ数年で LWG に加盟するタンナーやブランドの数が急速に増えており、世界的な主流となっている。
3 日本エコレザー基準認定 一般社団法人日本皮革産業連合会 2006年にNPO法人 日本皮革技術協会 と一般社団法人 日本タンナーズ協会 の協力の下に「日本エコレザー基準(JES)」が制定された。エコレザーとは「日本エコレザー基準(JES)」に適合し、「製品の製造・輸送・販売・再利用」までの一連のライフサイクルのなかで、環境負荷を減らすことに配慮し、環境面への影響が少ないと認められる革材料のことを指している。また、JESラベルの認定対象は「皮膚断面繊維構造を損なわない革」に限られ、再利用においても革の機能を損なわないことが大前提とされている。